【書評】「明け方の若者たち 」カツセマサヒコ

「明け方の若者たち 」カツセマサヒコ

映画が公開されるのをきっかけに手にとった本。

ストーリーは、明大前駅で開かれた飲み会で出会った男女の、その後の5年間を描いたもの。

想いが通じ合い、幸せの絶頂にいるカップルの姿が描かれているはずなのに、随所からどこか不穏な空気が読みとれる。その理由が中間で明らかになった後は、ラストが気になって一気に読み進めてしまった。

作りこまれた人物設定

この作品に共感する理由の1つに、登場人物の設定のリアルさがあるのかなと思う。

主人公の「僕」は、クリエイティブな仕事をしたくて広告代理店の新卒採用試験を受けるけれど、結果は惨敗。最終的に、第一志望“群”だった大手の印刷会社に就職を決める。印刷会社でもクリエイティブな仕事ができると想像していたものの、クリエイティブとは程遠い総務部への配属となり、不満を抱えながら過ごしている。

恋人からのLINEに“暇に思われたくないから”と11分後に既読をつけ、待ち合わせは下北沢の「ヴィレッジヴァンガード」。同僚からの勧めで高円寺で1人暮らしを始め、夏にはフジロックに行きたいと思う。

これだけの要素でもう「いるいる、こんな人」と思ってしまうし、頭の中でしっかりと「僕」の人物像が描かれるから、自然と感情移入させられてしまう。あと、同僚と会社のメールアドレスを使って連絡をする際に、周囲にバレないようタイトルを「新規案件のお問い合わせ」にする(総務部に新規案件は来ないから見分けがつく)あたりも、妙にリアル。

作品を彩る音楽たち

また、作中に登場する音楽たちも魅力的。

青春を彩ったRADWIMPSの3枚目もしくは4枚目、彼女が口ずさむミスチルのinnocent world、フジロックに対抗して出かけた2人の車で流れていたフジファブリック──これらの音楽が、作品を彩る要素になっていると感じた。

文章だけれど、読みながら音も感じられる作品。個人的には、映画の主題歌を担当したのは関係なく、マカロニえんぴつの「ヤングアダルト」「恋人ごっこ」あたりを想像してしまったけれど。

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