【レビュー】「この掌がまだ君を覚えている」moon drop
正直に言うと、自分は“青春のラブソング”みたいな類が得意ではない。
中でも、若手バンドが「学生時代のピュアな恋心を歌いました」なんて匂いのぷんぷんする曲を発表すると「あー、よくありがちな曲だよね」なんて考えてしまうひねくれた大人だと思っている。
そんな私がどういうわけか、moon dropのアルバム『この掌がまだ君を覚えている』に一瞬で心掴まされてしまった。
1曲目の「水色とセーラー服」は、〈終業のベル〉〈セーラー服〉の単語が示す通り、まさに青春を謳歌する男女の姿を描いたナンバー。楽曲が放つ眩しさとその圧倒的なピュアさが、小難しいことを考える余裕すら与えない。
続く「ラストラブレター」では、軽快なシャッフルビートが恋をするときの高揚感を見事に表現している。Bメロに入った時のクラップ、ラストサビ前でテンポが落ちたときに音数が急に減る点など、アレンジも細かい。
moon dropが「愛だの恋だのラブソングだけを歌い続けるバンド」を掲げているだけあって、このアルバムも恋愛ソングのみで構成されているが、アルバムを通してさまざまな恋愛の形があることを改めて思い知らされる。
例えば、「この雪に紛れて」では決して相手の“一番”になれない主人公の切ない恋心を歌っているし、対して「モーニングトースト」は、〈僕〉と〈君〉のありのままの日常を歌ったような生活感のあるラブソングに仕上がっている。アレンジもフォークソング的だったり、シンプルなアコースティック形態だったりと、ジャンルレスに楽しめる。
そして、1曲ごとに思わず「わかる」と頷いてしまうような歌詞が登場するのも特徴だ。
「ラストラブレター」の〈人を好きになることって最高に最悪だな〉、「リタ」の〈会うまでの数時間 あんなに緊張したこと ずっと忘れないでいたい〉、「四月が君をさらってしまう前に」の〈理想を並べて言い合ったこと 少しだけ期待してたんだけどな〉など、恋愛のふとした場面を切り取った歌詞が、浜口(Vo/Gt)の力強い歌声とともに心にすっと染みわたる。
さまざまな視点で、あらゆるシチュエーションで描かれた恋愛物語が、このアルバムには詰まっている。きっと、誰もが今の、もしくは過去の自分の恋愛模様と重ねて聴ける楽曲が1つ2つ見つかるだろう。誰もが経験する恋愛の楽しさ、苦しさ、素晴らしさを思い出させ、思わず聴き入らせてしまう魔法がこのアルバムにはあるのかもしれない。