【書評】「フィッシュストーリー」伊坂幸太郎

「フィッシュストーリー」感想・レビュー

自分がやっていることは誰かの役に立っているんだろうか。仕事をしながら、たまにそんなことを考える。

全4作の短編集。表題作の「フィッシュストーリー」は、時系列の異なる4つの場面から成り立っている。起点となるのは、売れないバンドの最後のレコーディング風景。「これ、いい曲なのに、誰にも届かないのかよ」「届けよ、誰かに」──彼らの想いは時を経て、のちに奇跡を生むことになる。

英語で「fish story」とは、「ほら話」や「大げさな話」を意味するそうだ。釣り人が釣った魚のサイズを大きく伝えることに由来するという。本作も「そんなに上手く繋がるか?」と思ってしまうような、言ってしまえば出来すぎた話だ。バンドメンバーは、自分たちの楽曲がどんなことを成し遂げたのか知らない。そこまで考えて、現実も同じではないかとふと気づく。私たちの周りでも、普段からこのような繋がりが起きているとしたら──自分がやっていることも、知らないうちに誰かを救えていればいいなと思う。

「サクリファイス」「ポテチ」には、伊坂幸太郎作品では大人気のキャラクター・黒澤も登場。そのほか、「ラッシュライフ」に関連する人物がちらほら見られるので、一緒に読むのがおすすめ。

【書評】「ラッシュライフ」伊坂幸太郎