【書評】「いけない」道尾秀介

「いけない」感想・レビュー

 読み終えた後、スマートフォンに手を伸ばしてGoogleを立ち上げる。検索窓に「道尾秀介 いけない 考察」と打ち込む。自分の解釈が正しいか、見落としている点がないかを確かめるために。

 本書は4つの短編で構成されており、それぞれ語り手や時系列は違えど、同じ町が舞台となっている。共通しているのは、どの物語も結論を読者に推理させる余白が残されていること。例えば、1章の「弓投げの崖を見てはいけない」では、走行中の車が通行人と接触したかのような描写で終わる。その手前では事故現場と思われる場所へ向かう3人の行動が描かれており、つまり、この中の誰かが車にぶつかったと解釈できるのだ。ただし、それが「誰だったのか」を明確に示す一文はない。読者は3人の描写から、誰が事故に遭ったのかを推理する必要がある。

 そんな中で最大の手がかりとなるのが、各短編のラスト1ページの写真や絵だ。1章なら町の全体地図が挿入されているので、3人の足取りと地図を照らし合わせれば答えが見えてくる。この結論が分かった時の爽快感がクセになり、次の謎に挑もうとページをめくる手が止まらなくなるのだ。

 ちなみに、各短編を読み進めていけば、なんとなくだが自分の推理の答え合わせもできるようになっている。そして、ラストの「平和」という言葉。本書をすべて「解読」した後であれば、この言葉の恐ろしさに気づくだろう。

 考察までしたところで始めて読み終えたと言える1冊。スッキリした読了感を味わいたいなら、軽い気持ちで読んではいけない。