【映画評】「ドラえもん のび太と空の理想郷」

「ドラえもん のび太と空の理想郷」感想・レビュー

生きていると、どうしても自分の短所に目を向けてしまうことがある。なぜ自分は皆みたいに〇〇ができないんだろう。あの人みたいに〇〇ができるようになりたい。“〇〇”に当てはまるものは人によって違うだろうけど、おそらく誰もが他人と比べて、劣等感を抱いた経験があるのではないだろうか。

映画『ドラえもん のび太と空の理想郷』は、なにかと人に比べて落ち込んでしまいがちな自分に刺さる映画だった。物語は、のび太が学校で理想郷(ユートピア)の伝説を聞くところから始まる。その後、空に浮かぶ月型の島を目撃したのび太は、その島こそがユートピアだと確信し、ドラえもん・ジャイアン・スネ夫・しずかを誘って探しに向かう──と、ここまでは定番の流れ。

訪れたユートピア(正式には“パラダピア”という島)には完璧な人間が集まっていて、のび太たちの案内役を務めるソーニャもまた、優秀で完璧なネコ型ロボットだった。しかし、実際はパラダピアを仕切っている三賢人が不思議な光で住人の心を操り、三賢人の思い通りの世界をつくりあげていたことが発覚する。

心を操られているわけだから、パラダピアの住民は皆同じような性格・知能・運動能力をもった人ばかり。だから皆優秀で、争いごともなく平和な日常が繰り広げられている。果たして、それで本当にいいのだろうか。三賢人に立ち向かうのび太たちを通して、私たちはそんな疑問を投げかけられる。完璧じゃなくていい、ダメなところがあっていい、それでこそ「私」なのだから。この映画に込められているのは、つい短所に目を向けてしまいがちな私たちを救ってくれるメッセージだ。

ラストに関わってくるので詳細は伏せるが、三賢人に絶対服従だったソーニャが、のび太やドラえもんの姿を見て変わっていくのも見どころの1つだと思う。脚本は、『リーガル・ハイ』や『コンフィデンスマンJP』シリーズで知られる古沢良太氏。彼ならではの鮮やかな伏線回収劇も光っているので、これから見る人は何がどこに繋がるのか予想しながら見ていて欲しい。

間違いなく、子どもも大人も関係なく楽しめるエンターテインメント作品。見た後は少しだけ、自分のこと誇れるようになるはず。