【書評】「ノエル」道尾秀介

「ノエル」感想・レビュー

小説を読むのが好きだ。

物語の世界で、自分と同じような想いを抱えている人に出会うと嬉しくなる。時には自分が知らない感情に出会うこともある。フィクションの世界ではあるけれど、現実と完全に切り離されているわけではなくて、物語を読むことで現実の世界も広がっていくように思っている。本に限らず、音楽や映画も同じかもしれない。だから私は時間の許す限りたくさんの創造物に触れたいし、同時にたくさんの世界を知りたいと思う。

道尾秀介の『ノエル』は、そんな“創作”が好きな人に読んで欲しい作品だ。この本には、3つの物語が収録されている。学校でのいじめに耐える中学生、妹の誕生に複雑な想いを抱える少女、妻に先立たれて生きる意味を見失った老人──それぞれ登場人物も異なるが、共通しているのはどの人物も「物語に救われている」点だ。彼らは物語を読んで、そして自分でも物語を作っていくことで、自身の暗い日常に光を注いでいる。まさにフィクションの世界によって、現実の世界も広げているのである。

小説内で私が最も好きだったのは、3つの物語の後に収録された「四つのエピローグ」だ。「四つのエピローグ」を読むと、別々に思われた3つの物語が、実はとても深いところで繋がっていたことがわかる。この“見えないけれど繋がっている”ことこそ、『ノエル』で道尾秀介が伝えたかったことなのかもしれない。

自分は誰かに救われていて、自分も誰かを救っている。この本のように、そうやって繋がりあえている世界だったら、きっと素敵だ。誰かの人生に影響を与えるとか、そこまで大きなことを成し遂げられるとは思わないけど、もし自分の生み出したものが、誰かに届いたなら。そして、その人を少しでも救うことができていたら、本当に嬉しいなと密かに思う。