【書評】「新 謎解きはディナーのあとで」東川篤哉

「新 謎解きはディナーのあとで」東川篤哉

お決まりのパターンこそ安心して楽しめるものはない。『新 謎解きはディナーのあとで』を読むと、そんなことを改めて考えさせられる。

第1作目の『謎解きはディナーのあとで』から、シリーズ4作目となる本作。5本の短編で構成されており、他のシリーズ作品同様に、それぞれの作品が大きく2部構成で展開されていく。

前半はお嬢様の身分を隠して勤務する刑事「宝生麗子」と、麗子の上司「風祭警部」の事件現場のシーンで、読み手に事件の概要が説明される。(そして、ここで登場する風祭警部の推理は残念なことにほぼ間違っている。)

後半は、勤務を終えて正真正銘のお嬢様に戻った麗子と、超越した推理能力をもつ執事「影山」が事件の真相に迫るシーン。その過程にはもちろんお楽しみの「影山の問題発言シーン」も含まれるわけで、事件の内容は変われど、シリーズを通して物語の進み方は全て同一である。

お決まりのパターンで楽しませる

大枠が同じにも拘わらず、どんな展開で来るのかを想像して楽しめるのがこの作品の魅力だと思う。

例えば、今作では風祭警部の推理シーンにしても影山の推理シーンにしても演劇パターンが多く盛り込まれていた。「この後真相が明かされるんだろう」「お決まりの毒舌シーンが来るんだろう」というある程度の展開の予想はできるけど、具体的な描かれ方は話によって多種多様。「今回はこう来たか」と毎回ワクワクさせられてしまうのが、『謎解きはディナーのあとで』シリーズの特徴である。

文章だからこそ伝わる面白さ

また、本シリーズは映像化もされているわけだけれど、書籍では文章ならではの表現にも注目しておきたい。

ジャガー自慢をする風祭警部に対しての「アンタのじゃがぁーの話なんて、どーだっていいっての!」という麗子のセリフや、麗子と全く同じ推理を風祭警部が述べる際に「中略」と表記されているなど、活字だからこそのお楽しみポイントもふんだんに詰まっている。

最後に、個人的に今回の作品は新人刑事・若宮愛里の存在が大優勝。麗子を困らせるほどの天然ブリで、今回も「相変わらず」な風祭警部に負けないぐらいの存在感を放っている。変わり者の後輩と上司の狭間で奮闘する麗子の姿を、次作でも同様に期待したい。