【書評】「名前探しの放課後」辻村深月

「名前探しの放課後」感想・レビュー

私が思う、辻村深月の小説の魅力は3つ。1つめは、登場人物の繊細な心理描写に共感できること。2つめは、ホラーとファンタジーが織り交ざったような不思議な世界観に没入できること。3つめは、他の作品との繋がりを楽しめること。(2つめと3つめは作品にもよる)

さて、この3つの要素を満たしているのが『名前探しの放課後』だ。

3ヵ月前にタイムスリップした主人公の与田いつかが、3ヵ月後に発生するクラスメートの自殺を止めるために奮闘するストーリー。ただし、肝心の“自殺者”が誰だったのかが思い出せない。いつかは、クラスメートの坂崎あすなや長尾秀人たちを巻き込み、“放課後の名前探し”を始める。

本作品のキーワードとなっているのが時間だ。「タイムスリップ」という、いつかが置かれた不思議な状況。そして、「いつか」「あすな」という、ともに時間に関連した名前をもつ2人の登場人物。タイトルの「放課後」も時間に関するワードであるし、作中にも時計や時刻表など時間に関するアイテムが数多く登場する。これらのピースが最後に綺麗にそろうとき、心がじんわりと温かくなるはず。

そして、辻村深月は想像を越えた仕掛けを用意している。もし『ぼくのメジャースプーン』が未読であれば、ぜひ先に読んでから本作を手に取って欲しい。時間があるのなら、『凍りのくじら』や『スロウハイツの神様』あたりも読んでおくとより楽しめると思う。辻村深月が繰り出す不思議な世界、その世界の終着点となっているのが、きっと本書なのである。