【書評】「私たちはどこで間違えてしまったんだろう」美輪和音
「私たちはどこで間違えてしまったんだろう」感想・レビュー
住民同士がみんな顔見知りの平和な町。そんな町の秋祭りで起きた毒物混入事件。主人公の仁美と、幼馴染の涼音・修一郎はともに被害者遺族となった。犯人は必ず、住人108人の中にいる。
──あらすじは上記となるが、この本の面白いところは、ただ事件の真相に迫っていくだけではない点だ。メインで描かれているのは、事件によって露わになる人間の“闇”である。疑心暗鬼になった住人たちは、犯人と疑われる人物を次から次へと吊るし上げ、糾弾していく。なかなか真相が掴めない中、マスコミの過激な報道も相まって、住人たちの行動は次第にエスカレートしていった。
著者のインタビューによると、この物語はスタンフォード大学で行われた監獄実験に着想を得たらしい。閉鎖的な空間で看守役と囚人役に分けられた被験者たちは、次第に自分が本当に看守と囚人のような行動を取るようになった。そこから、人間の行動は気質ではなく、置かれた状況によって決まると結論づけられている。
誰も信じられない、お互いが疑い合う環境に置かれたら、人はこうなってしまうんだろうか。人間のダークな部分にスポットを当てつつ、もし自分が同じ境遇になったらどうするべきなのかを、この小説では問いかけている。「祭り」「毒物」といった実際の事件を連想させる設定も、他人事ではないと感じられて恐ろしい。
本作のもう1つ面白いところは、物語が2部構成になっている点だ。前半では事件直後、後半では事件から10年後が描かれている。事件の発生と「10年」という時の流れを経て、メインキャラクター3人の関係性も徐々に変化していく。そんな中で、10年ぶりに秋祭りの開催が決定。再び不穏な空気が漂い始めたら、ページを捲る手はもう止まらない。