【書評】「強欲な羊」美輪和音

「強欲な羊」感想・レビュー

羊の皮をかぶった狼は誰なのか。見抜けそうで見抜けない、5つの物語が収録された作品。

1番印象に残っているのは、表題作である「強欲な羊」。本作は、大良美波子名義で脚本家として活動していた著者・美輪和音の小説家デビュー作であり、第七回『ミステリーズ!』受賞作でもある。語られているのは、とある洋館で暮らす2人の姉妹の昔話だ。艶やかで気性の激しい姉・麻耶子と、可憐で優しい妹・沙耶子。2人の間には昔から邪悪な事件が絶えず起きており、最終的には殺人事件にまで発展してしまう。

本作の面白さは、2人の姉妹の話を、第三者である“わたくし”の視点から描いている点にあると思う。いわゆる「独白形式」で、読み手は“わたくし”の語りから事件の全貌を知ることになる。ただし、それはあくまで“わたくし”の主観的なもののため、話のどこまでが真実なのかは分からない。一体犯人は誰なのか、この姉妹の話は誰に語られているのか、そもそも“わたくし”は何者なのか──読んでいくうちに思い浮かぶ疑問のピースが、ラスト数ページで一気に繋がって1つの絵になるのが気持ちいい。

他の4編も基本的にはミステリーを軸としているが、ここにホラー要素が加わってくるのも美輪和音作品の醍醐味だと思う。とくに3作目の「眠れぬ夜の羊」や、5作目の「生贄の羊」はホラー色が強くなっているので、ホラー好きの方にはおすすめしたい。

最後に、本を読み進めていると“思い込み”の恐ろしさに気づくと思う。「これはこうだろう」と決めつけて読んでいたら、きっとすでに騙されている。少しでも違和感を抱いたら無視せずに、細かい部分まで慎重に見てほしい──、とこれはきっと現実の世界でも同じこと。あなたの近くにいる人もまた、もしかしたら羊の皮をかぶった狼かもしれない。